最近、人力資源社会保障部は「企業における競業避止義務実施コンプライアンス指針」(以下「本指針」という)を公表し、企業が法令に基づき、適法かつ適切に競業避止を実施するための明確な基準を示した。
競業避止は、営業秘密を保護するための重要な法的手段である一方で、近年ではその適用範囲の過度な拡大、補償水準の不統一、違約金の過大設定などにより、労働紛争を頻発させる原因ともなっている。
本稿では、「労働契約法」などの関連法令の規定を踏まえつつ、「本指針」の核心的内容を整理し、企業がコンプライアンスの限界を明確に把握し、営業上の利益と従業員の権利との適切な均衡を図るための参考とするものである。
一 適用対象:「必要かつ合理的」でなければならない「本指針」は、競業避止義務の適用にあたっては、その実施が「必要かつ合理的」であることを前提とすべきであると強調している。
「労働契約法」第24条によれば、競業避止義務の対象となるのは、高級管理職、高級技術職、その他営業秘密の保持義務を負う従業員に限定されている。
このうち「その他の営業秘密保持義務を負う従業員」については、企業側がその理由を事前に説明し、当該従業員が接触し得る営業秘密の具体的内容を明確にする必要がある。
一般的な知識や汎用的な情報しか扱わない従業員を競業制限の対象に含めることは許されない。
さらに、企業はまず、自社に法的保護の対象となる営業秘密が存在するかどうかを確認し、データの暗号化、アクセス権限管理、秘密情報の閲覧・解除制度など、合理的な秘密保持措置を講じなければならない。
競業避止義務を導入する前に、その必要性を十分に検討し、実際に営業秘密に接触していない従業員を対象に含めることは避けるべきである。
二 契約形式:書面による合意が必須である「本指針」は、就業規則などの社内規程をもって競業避止義務契約に代えることを明確に禁止している。
すなわち、就業規則など社内規定に原則的な規定を設けるのみで、従業員と個別に書面契約を締結していない場合、従業員に対して競業避止に関する法的効力を有しない。
企業は、従業員との間で書面により競業避止義務の具体的内容を明確に定めなければならない。契約には、競業避止の対象範囲、地域、期間、補償金基準および支払方法、違約責任などの主要事項を含める必要がある。
三 競業避止の範囲および地域:具体的かつ合理的であること競業避止の対象範囲および地域は、企業の実際の経営状況、業界における競争構造、そして従業員が扱う営業秘密の内容に応じて、合理的に設定する必要がある。
(1)対象範囲
競業避止の対象は、自社と競争関係にある企業に限定すべきであり、可能な限り具体的な企業名を明示することが望ましい。必要に応じて、企業名を一覧としてリスト化することもできる。
(2)地域範囲
地域の設定は、企業の実際の営業地域と整合させる必要があり、原則として「全国」や「全世界」といった過度に広範な範囲を恣意的に設定してはならない。やむを得ず広域設定が必要な場合には、その合理的理由を契約書中で明確に説明しなければならない。
また、競業避止の期間は最長でも2年を超えることはできない。
企業が優越的な地位を利用し、従業員に対して著しく不公正な契約(たとえば、期間超過の制限や過度に低い補償額)を強要した場合には、従業員は法に基づき当該契約の無効または一部無効を主張することができる。
四 経済補償:法に基づき適切に支払わなければならない企業は、競業避止義務を履行する従業員に対し、毎月経済補償を支払う義務を負う。
その補償額は、従業員の退職前12か月間の平均賃金の30%以上でなければならず、かつ所在地の最低賃金基準を下回ってはならない。
競業避止義務の期間が1年を超える場合には、補償額を平均賃金の50%以上とすることが望ましい。また、企業は「賃金の中に競業避止補償が含まれている」と主張することはできない。
補償が期限どおりに支払われず、催告後1か月を経過してもなお支払われない場合、または累計3か月以上支払いが滞った場合には、従業員は単独で競業避止契約を解除する権利を有する。
五 違約金:合理的に設定する必要がある違約金の金額は、営業秘密の漏えいによって生じ得る損害の程度および支払済みの経済補償額を総合的に考慮した上で、合理的に設定しなければならない。原則として、違約金の額は補償総額の5倍を超えてはならない。
違約金が明らかに過大である場合には、従業員は労働仲裁または訴訟において、その減額を申し立てることができる。
六 履行および解除:動的管理と柔軟な調整が必要である競業避止契約は、締結したからといって必ずしも履行しなければならないものではない。
企業は、従業員の退職時に、その職務内容の変更や営業秘密への接触状況などを考慮し、競業避止を実施する必要があるかどうかを再評価すべきである。
競業避止の必要がないと判断した場合には、書面により従業員に通知しなければならない。一方、競業避止の実施を決定した場合には、法に基づき補償を支払う義務が生じる。
企業が契約を前倒しで解除する場合には、従業員と協議の上、補償額を決定すべきであり、協議が成立しない場合には、少なくとも3か月分の補償に相当する解約費用を支払わなければならない。
また、企業は、定期的に従業員の就業状況を確認するなどの方法により、合理的な範囲で監督を行うことができる。
従業員が契約に違反した場合、企業は違約金の支払いを請求できるほか、契約の継続的履行を求め、さらに違約金を超える実際の損害について損害賠償を請求することも可能である。
七 紛争処理:法に則り権利を行使し、手続きを明確にすべきこと競業避止に関する紛争は労働紛争に該当し、解決手続は原則として「協議―調停―仲裁―訴訟」の段階的プロセスに従う。
企業の労働組合は、従業員の意見を収集し、不当な制限行為が認められる場合には是正の提案を行うことができる。
また、従業員は、企業が補償金を支払わないなどの問題に関して、人力資源社会保障部門に苦情を申し立てることが可能である。
企業は協議の過程において、書面による証拠を適切に保存し、証拠不足によって不利な結果を招くことのないよう十分に注意すべきである。
八 まとめ競業制限は、まさに「両刃の剣」である。適切に運用すれば、企業の中核的利益を効果的に保護できる一方、運用を誤れば、従業員の合法的権益を侵害し、さらには法的リスクを招くおそれがある。
企業は、適用対象、契約内容、補償基準、動的管理などの各側面において厳格に審査・管理を行い、合法性・コンプライアンス・合理性を確保することにより、営業秘密の保護と従業員の自由な流動性との間で健全な均衡を実現すべきである。