コラム

杜雲華:新「会社法」における董事・監事・高級管理職の責任強化について

2025-11-20
著者:杜雲華
 
2024年7月1日に施行された改正「会社法」(2023年改正版)は、「コーポレートガバナンスの強化」を中心目標とし、董事・監事・高級管理職(以下「董事等」という)の責任体系を全面的に再構築しました。
本稿では、新会社法が董事等の責任をどのように強化したかを整理し、その上で実務における対応策をご紹介します。

一 董事等の責任体系の強化

1 忠実義務の具体化
改正法180条は、董事等が会社に対して忠実義務を負い、自己の利益と会社の利益との相反を回避するための措置を講じなければならず、職権を利用して不当な利益を得てはならないと規定しています。

さらに181条では、例示列挙の形式で以下の行為を明確に禁止しています。
(1)会社の財産を横領し、会社の資金を流用すること
(2)会社の資金をその個人名義又はその他の個人名義で口座を開設し預金すること
(3)職権を利用して賄賂を贈り、又はその他の不法な収入を得ること
(4)他人と会社との取引のコミッションを受け取り、自己のものとすること
(5)会社の機密を無断で開示すること
(6)会社に対する忠実義務に反するその他の行為

2 勤勉義務の明文化

第180条は、勤勉義務の内容を初めて法律レベルで明確化し、董事等に対して「職務の遂行にあたっては、会社の最大利益のために、管理者として通常求められる合理的な注意義務を尽くすこと」を求めています。
この規定は、英米法系における「注意義務」(Duty of Care)の基準を参照したものであり、董事等が職務遂行や意思決定を行う際には、十分な情報に基づき、慎重な判断を保つことを強調しています。

3 関連当事者取引の手続管理と実質審査
182条は、董事等またはその関連者が会社と契約・取引を行う場合、董事会または株主会への報告および定款に基づく決議が必要であると規定しています。

注目すべき点として、「会社法司法解釈(五)」1条は、関連取引が形式上は情報開示や内部決議手続きを履行していても、取引価格が著しく不公正であるなど、実質的に会社の利益を害している場合には、董事等が賠償責任を負う可能性を明確化しました。
司法実務では、手続の適法性だけでなく、取引内容そのものの公平性が重視されます。

4 利益相反行為の厳格な制限
183条は、董事等が職務上得られる「会社に属すべきビジネスチャンス」を私的に利用することを禁止しています。例外として認められるのは、①董事会または株主会への報告と承認を得た場合、②法律・行政法規または定款に照らして、会社自身がその機会を利用できない場合の二つに限られます。
184条では、董事等が報告・承認手続きを経ずに、自己または第三者のために会社と競合する事業を行うことを禁止し、競業行為に対する規制を強化しています。

5 賠償責任の全段階の強化
(1)一般的な賠償責任
188条は、董事等が法律・行政法規・定款に違反し、会社に損害を与えた場合に賠償責任を負うことを定めています。

(2)特定場面における強化された賠償責任
新会社法では、以下の重要場面において、より厳格な責任規定を設けています。

出資状況の確認義務(51条)
董事会が出資未履行状況の確認・催告義務を果たさず損害を生じた場合、責任ある董事が賠償責任を負う。
出資の引揚げ(53条)
株主が出資を引き揚げた場合、責任ある董事等は当該株主と連帯して賠償責任を負う。
違法な財務支援(163条)
他者の本会社または親会社株式取得に違法な財務支援を提供し損害を生じた場合、責任ある董事等が賠償責任を負う。
違法な利益分配(211条)
違法な利益分配で損害が生じた場合、株主は返還義務を負い、責任ある董事等も賠償責任を負う。
違法な減資(226条)
違法な減資により損害が生じた場合、株主および責任ある董事等が賠償責任を負う。

6 清算義務の主体明確化と責任強化
232条は、会社解散時の法定清算義務者を董事と規定し、解散事由発生後15日以内に清算組を組織すべきことを定めています。
この義務を怠り、会社財産または債権者の利益を損なった場合、董事は相応の賠償責任を負うことになります。

7 株主代表訴訟の適用拡大
189条は、董事等が賠償責任を負うべき場合、株主が会社に対して書面で訴訟提起を求めることができ、会社が請求を拒否したり権利行使を怠ったりしたときは、株主が会社の利益のために自己の名義で訴訟を提起できると規定しています。
また、同条は初めて「二重代表訴訟」制度を導入し、株主が自己の名義で、全額出資子会社の董事等による損害行為について訴訟を提起することを認めています。

二 対応の提案
1 内部制度の整備と履職指針の明確化
定款において、忠実義務・勤勉義務の内容をより具体化し、たとえば関連取引の開示範囲やビジネスチャンスの報告期限などを明記することを推奨します。
また「董事等行動規範」を策定し、抽象的な法律義務を実務で確認可能な行動基準へと落とし込むことが望まれます。

2 プロセス監督の強化と記録(エビデンス)管理の徹底
重要な経営判断、関連取引の審査、出資状況の確認などの場面では、決議過程・資料・リスク評価などを文書として残す「記録管理」を徹底し、勤勉義務を尽くした証拠として保全する必要があります。

3 専門研修の実施とコンプライアンス意識の向上
忠実義務・勤勉義務、関連取引、賠償責任など改正法の重要論点を中心に、不定期的に研修を実施し、典型事例を用いて法的リスクと責任の重大性を共有することが有効です。

4 リスク移転手段としての董事等賠償責任保険(D&O保険)
董事等が職務上の過失により負う民事賠償リスクをカバーするため、D&O保険の導入を推奨します。ただし故意または重大過失は補償対象外である点に留意する必要があります。

5 専門家の活用
資本取引、関連取引、重大な投資プロジェクト、会社清算・抹消などの重要局面では、法律・会計の専門家に早期に相談し、リスクを未然に管理することが望まれます。

注:高級管理職の定義
高級管理職とは、会社の経理、副経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書及び会社定款に定めるその他の者をいう(新会社法265条)。